ノウハウ
AIが人間のクリエイティブな仕事を奪う日は果たしてくるのか?
2023年5月26日
AI(人工知能)の研究開発が進み実用化されるにつれ、我々の生活は非常に豊かで便利なものになりつつあります。AIを活用することで、そもそも人間ができない仕事や人間より効率的に行える仕事をAIが対応し、仕事の省力化を図ることができるようになります。
最近では文章生成AIや画像生成AIなどの登場により、人間のクリエイティブ領域にもAIが参入していますが、そうなってくるとクリエイティブな仕事を「人間の仕事をAIが奪うのでは?」という不安も出てくるでしょう。とくにクリエイティブな仕事を現在こなしている方の中には、AIの登場を脅威に感じ、この先仕事がなくなるのではないかという恐怖を感じている人もいるのではないでしょうか。
この記事では、AIが人間のクリエイティブな仕事を奪うことはあるのか?というテーマについて考えてみたいと思います。
目次
AIができること
AIは大きく分けると「特化型AI」と「汎用型AI」という2つのタイプに分かれます。
まず「特化型AI」ですが、これは特定の領域にのみ対応できるタイプのAIです。ある決められた範囲内で限定された処理を行えるもので、現在実用化されているAIの大半は特化型AIとなります。たとえば、医療分野や異常検知に使用されるAI、囲碁や将棋などの対戦型AIがこれに該当します。また、ディープラーニング(機械学習)もこの特化型AIの領域のひとつです。
特化型AIは、限定領域に関しては自動的に学習し処理できますが、当然ながら範囲外のことに対応不可能な特徴もあります。
一方の「汎用型AI」は、人間のように自発的に考えて行動するタイプのAIです。例を挙げるとすれば、ドラえもんのようなロボットが誕生すれば汎用型AIに該当します。しかし汎用型AIは概念としては存在しているものの、現在のところ実用化にはいたっていません。
ここからはAIが行うことができるものについて紹介してきたいと思います。
ここでは
- 画像解析
- 言語解析
- 予測・推論
- 音声解析
- 物体の識別
についてそれぞれ解説していきます。
画像解析
画像解析とは、カメラで撮影された画像データをAIで認識・判別する技術です。蓄積されている膨大なデータから画像に含まれている特徴を学習し、画像に何が映っているかを分析・解析します。近年、画像解析はディープラーニングを活用することで精度が向上し、多くの分野で応用が進んでいます。
実際この画像解析の技術は、製造現場の異常検知や防犯カメラの顔認証などに活用されているものです。
言語解析
言語解析は「自然言語処理」とも呼ばれ、人間が使用している言葉をコンピューターで処理する技術です。用いてある文章の構造や語句を解析して、人間が理解可能なレベルの文章に変換することを可能にします。
これまでにも機械翻訳などの分野において言語解析は行われていたものの、使用する語句や言い回しによって表現方法が異なることから、自然な文章を返すのが難しいとされていました。しかし、2018年にGoogleが発表した「BEAT」や、最近では「ChatGPT」の登場により、人間が作成したかのような文章表現を実現できるようになり、注目を集めています。
AIによって作成可能な文章形態には
- ルールベース方式
- 統計的自然言語処理方式
- トランスフォーマー方式
などのように、いくつかの方法があります。
「ルールベース方式」とは、事前にプログラムされた法則に従い文章を生成する方式です。たとえば、文章構造をあらかじめ設定しておけば、その形に添って文章が作成できます。
「統計的自然言語処理方式」とは、大量のテキストデータをAIが学習した上で、そのデータから文章を生成する方式を指します。たとえば、マルコフ連鎖モデルやニューラルネットワークを使用して、文章の生成を行うものです。
「トランスフォーマー方式」とは、自己注意メカニズムを用いたニューラルネットワークモデルを指します。大量のテキストデータを学習し、文脈に応じた文章を生成することができるものです。
予測・推測
AIでは未来予測をすることができます。過去のデータを遡り時系列データを学習することで、将来起こりうる事象を推測するものです。
AIができる未来予測には、
- 耐用年数や使用頻度により機械の故障を予知できる予知保全
- 商品の需要予測
などがあります。予知保全は製造業やプラントにおいてニーズが高く、あらかじめ機械が故障するタイミングが予測できれば事前にメンテナンスや設備の交換を行えるため、故障により作業時間が止まることがなくなります。また、商品需要予測ができれば、商品の欠品または過剰在庫を抱えるリスクの削減を可能とし、正確な需要が見込めます。
音声解析
音声解析は人の声を認識してテキスト化できる技術を指します。たとえば、人が発した言葉を文字にする業務(文字起こしなど)では、音声を正確に聞き取る必要があり、入力ミスもしばし発生するなど負担が大きい作業のひとつです。しかし、AIが音声認識してテキスト化できれば、入力負荷は大きく軽減でき、人間が行う作業はより自然な文章に編集するだけで済みます。
また単に文字をテキスト化するだけでなく、応用技術によりAIが人と会話することも可能です。すでに商用化されているものとして、Google HomeやAlexaのようにデバイスに音声で指示することで、必要な回答を得ることができる商品・サービスもあります。
物体の識別
物体の識別(物体検知)とは、画像を取り込んだのち、特定の物体の位置や個数、種類などの情報を認識する技術を指します。画像の中のどの位置に何が何個あるのかを判断することができ、製造業における外観検査や医療の分野に活用されています。画像認識と似ていますが、物体の識別に関しては位置情報を絞り込むことができたり、対象以外の物体を排除したりできる点が異なります。
AIが代替できるクリエイティブな仕事
AIは上記のような技術により、人間に代わりさまざまな業務を行うことが可能です。
具体的に、AIが人間に代わってどのようなクリエイティブ仕事を行えるかというと、デザインAIを用いてWebサイト制作や画像編集、ロゴ・バナー作成などを行うことが可能です。また動画編集や3Dの分野においてもデザインAIは導入されており、デザインの分野でAIが席巻する時代はすぐそこまで来ています。
デザインAIができること
デザインAIを活用することで、デザイナーの業務負担は大幅に短縮されます。たとえば、Web制作においてHTMLやCSSコーディングは非常に手間のかかる仕事ですが必要不可欠な作業です。単純かつパターン化されたWebデザインであれば、コーディング部分はAIに任せ、デザイナー自身はよりクリエイティブなイラスト制作などに業務を集中することができるでしょう。
デザインAIで活用される技術には、先ほど紹介した「画像解析」「予測」「言語解析」などがあります。
まず「画像解析」は、デザイン制作においてAIが得意とする部分です。画像のトリミング作業や境界線を認識して着色する作業を担う優れもの。AIによる画像解析は、静止画だけでなく動画や3Dデザインにも適用することができます。
「予測・推論」がデザインAIで果たす役割には、豊富なデザインの中から条件に即した最適なデザインを提案してくれるものがあります。必要とするデザインの特徴をAIに投げかけることで、トレンドにマッチしたデザインを瞬時に提案できる点は、人間には難しい作業です。
最後に「言語解析」ですが、人間が使用する自然言語を類似語・類義語を含めてAIが解析。たとえば、画像検索する際に「クール」「清潔感のあるデザイン」などの抽象的なワードであっても適切な画像抽出を行えます。
AIではできない仕事
クリエイティブな領域にも進出し、万能そうに見えるAIではありますが、AIが不得意とする仕事も当然ながら存在します。
AIで行うことができない仕事とは、
- AI自体を開発する仕事
- コミュニケーションが必要となる仕事
- ゼロから何かを想像するクリエイティブな仕事
- 自動化が難しい仕事
などがあります。
AI自体を開発する仕事
現状AIがAI自体を開発することはできません。先ほど汎用型AIの紹介をしましたが、人間の知能をAIが超える「シンギュラリティ」が到来すればAIがAI自身でより精密なAIを構築していくといわれています。
シンギュラリティは、遺伝子工学やロボット工学、ナノテクノロジーの目覚ましい成長によって2030年~2045年頃には到来するのではないかといわれています。その頃になればAIがAIを開発するようなことが当たり前のように起こるかもしれません。
コミュニケーションが必要となる仕事
AIには人の気持ちを汲み取ってコミュニケーションを取ることができません。感情を持たないAIは、発せられた音声情報や入力されたテキスト情報をもとに、その時点で最適な回答をアウトプットすることはできても、空気を読み回答するような場面には向きません。
たとえば、あらかじめ回答パターンが決まっているものは難なくこなせますが、営業職やカウンセラーのような、人の内面を探らなければならないケースなどでは難しいといえます。
ゼロから何かを創造するクリエイティブな仕事
AIが行っているのは、あくまで膨大なデータベースをもとに学習した結果をアウトプットしているにすぎません。そのため、AIがクリエイティブな仕事を行うといっても、実際には過去に作られた何らかの作品やコンテンツをもとにしているだけで、まったくのゼロから何かを生み出しているわけでなく、その部分は人間にしかできない作業となります。
ただし、第三者から見ると十分クリエイティブな仕事として認識できるほどAIが行う作業の精度は高くなっており、近い将来AIが人間に代わって創造力を身に付ける時代が来るかもしれません。
自動化が難しい仕事
AI自体は単純作業を得意としているものの、どんなに単純な作業であっても自動化できないものに関しては不得意としています。人間であれば多少のイレギュラーが発生しても瞬時に判断して対処することができますが、AIの場合、イレギュラーなものが何なのかを事前に学習しておかないとパターン認識することができません。
反対にいえば、パターン化しさえすればAIが対処できる仕事になり得るともいえるでしょう。
AIは人間からクリエイティブな仕事を奪うのか?
上記のように、AIはクリエイティブな仕事をより人間と同等または人間以上に効率的に行うことができる革新的技術ではありますが、人間しか持ち得ない感性やクリエイティブな能力についてはAIが代替することはできません。
世間ではAIがクリエイティブな仕事を奪っていくという見方をしている人もいるようですが、100%AIに頼ることはできないでしょう。現状はあくまで補完的ツールとして、クリエイティブな業務をより効率的に、より楽にすべく活用してくことが求められるのではないでしょうか。
まとめ
以上、AIが人間のクリエイティブな仕事を奪う可能性について見てきました。
AIがクリエイティブに進出してきたことにより、危機感を持つクリエイターは増えていることでしょう。しかし、感情を持たないAIが人間に取って代わることはできません。相手の感性に訴えかけることは人間にしかできない作業です。
ただし単純作業や効率の悪い作業、人間では難しい作業をAIに、ゼロから生み出す作業は人間が行うという具合に上手に棲み分けできることが、クリエイティブ領域で生きるクリエイターが生き残っていくためには必要となっていくことでしょう。